立志伝


祭事の数日後、玖葛と高杯は宮中の庭園に足を運んでいた。




「これは霞草というのですよ。美しいでしょう?」

「そうだな、私の好きな色だ。」


「それからこちらはつつじといいます。」


「…クス。」



「?」


「いや、お前は花の事になるとよく喋るなと思っていたな。」


「なっ、何をおっしゃるのです!私はいつも通りですよ。」


「そうか?よっぽど花が好きなのだな。」



「ええ…、好きです。花は人と違って美しいですから。」


「なぜだ?」


「欲です。」



「と言うと?」


「人とは欲を持つ生き物なのです。それが人それぞれ異なろうと結局は叶うように動く。一つ叶えば次、それも叶えばまた次を。その繰り返しなのです。一度その渦に飲まれてしまえば抜け出す事は不可…。よくお家の為だと申す者がおりますがそれも同じ事です。」

「確かにお前の言う事もわかる。だが欲を持つというのは人であればこその事。天の下に生まれし者の定めだ。」


「定め…?」
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