立志伝
ジャリ、 ジャリ――
(―これは、――)
「玖葛、ご覧なさい。」
「何でしょう?」
見ると、架藍の手の中には青紫色をした小ぶりな花が握られていた。
「これは?」
「りんどうと言うのですよ。これを見るのは初めてですか?」
「はい。この花は、りんどうは初めて見ました。」
「そう、…では浮瀬殿に何本か持って行って差し上げなさい。」
「母上に、ですか?」
「ええ、このように美しい花を差し上げればきっと浮瀬殿も喜ばれるでしょう。」
「―そうですね。女人は花が好きだと言いますし。」
それを聞くと架藍はその場に屈み込み、りんどうを三本手折った。
「どうぞ」
そう言いながら玖葛に手渡した。
「浮瀬殿はきっと喜ばれるますよ。」
「はい。それでは私はこれで失礼いたします。」
背を向け踵を返そうとすろと―――
「玖葛、」
「はい?」
「そなたは聡い子だ。その曇りなき眼で見定めれば自ずと真実は見えてくるでしょう。しかし本当に大切な物からは目を話してはいけない。無くしてから気付いてももう遅いのだから―――。」