立志伝
(―――気付いても遅い?架藍様は一体何のことを―)
「それでは、私の可愛い玖葛―――」
考え込んでいると耳元で架藍の囁く声が聞こえた。
「お待ちく……」
玖葛が顔を上げた時にはすでに架藍の姿はなかった。
▼▼▼
あの後玖葛は庭を後にし、母のいる院に足を運んでいた―――
(母上は喜んでくださるだろうか―)
玖葛は浮瀬が花を好きなことを知っていた。だがそれはあくまで土に根を張り水を吸い上げ生きている花を見ることであった。
一抹の不安を抱えつつも足は母の元へ運ぶ。
「母上」
(――今のは葛の声…?)
「玖葛ですか?」
「はい、入ってもいいでしょうか?」
「ええ、お入りなさい。」
「どうしました?」
「はい、母上にこれを差し上げに来ました。」
浮瀬の目には玖葛の手に握られているりんどうが映った。
「まあ、りんどうですね。ありがとう。」
母の微笑みに玖葛はほっと息をついた。
「でもこのままではしおれてしまいますね。鈴駒、」
「はい」
「これを水につけて活けておいてください。」