イケメン伯爵の契約結婚事情
「……ねぇ、ちょっと食糧庫に降りてもいい? カール、着いてきて」
「はい」
エミーリアはカールを伴って地下に降りた。相変わらずの冷えた空気に一瞬身震いをする。
「カールは毎日ここに出入りするの?」
「ええ」
「どこか変わったところとかある?」
「毎日食材を出し入れするので、多少は変わりますけど、ここに入れられるものは大体決まっていますよ。保存の効く根菜類と、乾物と、瓶詰のものですね。ほら、ピクルスとか、ジャムとかハチミツとか」
「ハチミツ……」
先ほどの侍女が持っていた小瓶の中にはとろりとした液体が入っていた。あれは、ここにあるハチミツの瓶と一緒だ。
「ここのハチミツはどこの産地なの?」
「うちの領土内です。季節に応じて養蜂家が移動してとっているんですよ」
「移動?」
「ハチミツは花の種類が変われば味も変わります。普通は混ざらないように一面に同じ蜜源植物が植わっているところでとるようですよ」
カールが説明しているうちに、エミーリアからは血の気が失われていく。それに気づいたトマスが背中を支えた。
「エミーリア様、どうしました? 顔色が……」
「……メラニー。倒れた日、ミルクは飲んだ?」
「ええ。いつも通り美味しくいただきました」
「あなたはいつもハチミツを入れていたわよね?」
「ええ……え?」
「あの日のハチミツ、いつもと違くなかった?」
メラニーは記憶をたどるように視線を泳がせた。