イケメン伯爵の契約結婚事情


「どうだったでしょう。いつもと同じ瓶だったのは覚えていますが、味までは覚えていません。違和感を感じるほどではなかったと思いますが」

「食事の席にさっきの侍女はいた?」

「ええ、それはもちろん。手の空いた侍女たちで一緒に食べていましたもの」


同じ席で食事していたのなら、メラニーの席の近くのハチミツの瓶だけをこっそり違うものに置き換えておくことも可能だろう。
エミーリアは、頭の中で数々の事象が噛みあっていく音を、聞いたような気がした。


「……フリードを追うわ」

「は?」

「フリードに教えなくちゃ。トマス、馬を、ムートを用意して!」


言うが早いか、エミーリアは地下室を出る。

メラニーは病み上がりで早く動くことは出来ず、トマスは仕方なく彼女をカールに託し、エミーリアの後を追いかけた。


「意味が分かりません。外出などさせられるわけがないでしょう」

「分かったのよ。毒の正体はハチミツだわ。蜜源植物が毒ならば、毒のハチミツができるかもしれないでしょう。そしてそれならば形には残らない。毒のハチミツと普通のハチミツを入れ替えて、証拠を残さないようにしていたのよ。あの小瓶ならば持ち歩きも可能だし、いつでも隠すことができるし、すり替えることも簡単だわ。見つかったところですぐに毒だなんて気づかれない」

「まさか。そんな」

「あの侍女が持っていたのがハチミツの小瓶だったのよ。食糧庫には同じラベルの瓶がたくさんあった。必要な時に入れ替えることくらい侍女という立場にいればできるわ。まして、アルベルト様の命令で自由に食糧庫に出入りできたというならね。
フリードは毒源は根だと思っているの。食べ物には警戒するけど、飲み物にまでは警戒しないはずだわ。伝えないと毒をもられるかもしれない」

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