イケメン伯爵の契約結婚事情
「ならば私がフリード様に伝えに行きます。エミーリア様はお部屋に」
「いやよ」
止めようとするトマスの手を、エミーリアははじき返した。
「トマス、私、じっとしていられないの。怒られても、危険があっても構わないわ。フリードに会いたいの」
いつも明るい令嬢の真剣な顔に、トマスもカッとなって彼女の両肩を掴む。
「あなたが行って何か役に立つんですか。ただの契約でしょう? 一年だけの……」
「フリードがそのつもりでも、私は変わったのよ。彼を助けたいの、力になりたいの。私はっ」
彼に危険が迫っているのに、じっとなどしていたくない。こんな離れたところで、何もわからずに心配しているだけなんて嫌だ。契約の一年が過ぎても、離れたくない。あの人が歩む人生を、一緒に歩んでいきたい。
堰を切ったように溢れ出してくる思いを、エミーリアはもう隠す気はなかった。
「トマス、私、フリードが好きなの」
必死の形相で詰め寄るエミーリアを、トマスは眩しそうに眼を細めて見つめた。
「……ったく、いつまでも子供だと思っていたのに」
ため息とともに吐き出した小声は、従者としてのモノではなかった。
トマスにとって愛らしく守らねばならない令嬢は、こんな短期間で自らの羽ばたき方を見つけたのだ。
悔しさとともに、胸の一部は喜びに沸いていた。それは妹の成長を喜ぶ兄のような感情で。
次に顔をあげたときには、いつものトマスに戻っていた。