イケメン伯爵の契約結婚事情


「変な目で見ないでよ!」

「ほら、すぐに敬語が抜ける。あんたはいい家の娘だろう。領主と言われる男を前にそれだけ堂々と嘘をつけるところも大したもんだ。気に入った。実は今、早急に花嫁が必要なんだ。あんたは度胸もありそうだからちょうどいい。俺の元へ嫁がないか?」

「……は?」


エミーリアは目が点になった。

目の前の男は先ほどまでの不信感丸出しの顔とは打って変わって、紳士めいた微笑みを見せる。
でも言動は全然紳士じゃない。こんなむちゃくちゃな求婚など聞いたことがない。


「恐れ入りますが、聞かなかったことにさせてください。さ、参りますよ、お嬢様」


フリードから奪い取るようにしてトマスがエミーリアの肩を抱く。
と、背後から落ち着いた声が聞こえてきた。


「ベルンシュタイン家の深窓のご令嬢は、美しい栗毛に薄茶の瞳をお持ちだそうだ。人づてに聞いた話だが、目元のほくろが蠱惑的なんだそうだよ」


エミーリアは身を竦める。
ここのところ人とは会っていないはずだが、唯一、兄の結婚披露パーティで、数人の紳士と話した覚えがある。そのときは両親の手前、恥ずかしがり屋のお嬢様を演じたものだが。


「容姿はそっくりだな。俺が予想していたのとはだいぶ違うが、あんた、ベルンシュタイン家のエミーリア嬢だろう」

「な、な、何のことですか」

「急ぎで結婚相手を探していると言っただろう。近隣の年頃の女性の情報くらい入っている。最も、男と話すだけで失神するようなウブな女性と聞いていたが、どうやらガセだったようだな」


ガセですいませんね。と思いつつ、自分のことを知ってることには納得し、どう誤魔化すべきかエミーリアは目を泳がせた。

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