イケメン伯爵の契約結婚事情
「分かりました。私も一緒に行きます。馬を用意しておくので、お嬢様は動きやすい格好をなさってください」
「メラニーの服を借りるわ。着替えたらすぐに行くから」
身をひるがえして駈け出すエミーリアを見つめる使用人たちの視線には、驚きが内包されている。
“しとやかで大人しい深窓の令嬢”
そんな噂は嘘だったんだと、誰もが思うだろう。
エミーリアは苦笑しながら、メラニーの衣装ダンスを勝手に開け、シンプルかつ足が自由に動きそうなフレアーのワンピースを見つけ素早く着替えた。
「エミーリア様?」
カールに支えられながらようやく部屋まで戻ってきたメラニーに「ごめんね、メラニー。服を借りるわ」と宣言し、カールには「アルベルト様の侍女の荷物を調べて」耳打ちする。
「え?」
「ハチミツの瓶が出て来たら取り押さえて、誰も食べてはダメよ。大事な証拠として保管しておいて」
「証拠って……エミーリア様?」
カールの返事を聞く間もなく、エミーリアは再び屋敷内を疾走する。
玄関を開けたところではすでに二頭の馬が待っていた。
ムートと、屋敷で飼われている栗毛の馬だ。
「ムート、お願いね」
エミーリアは軽やかな身のこなしで馬体をまたぐ。
「こちらです」
トマスが道案内を引き受け、先にたって走り出した。
あっけにとられた表情の使用人に見送られながら、エミーリアとトマスはアルベルトの屋敷へと向かった。