イケメン伯爵の契約結婚事情
9.叔父のねらい
先週来た時と変わらぬ、落ち着いた屋敷。
執事のエグモントは、久しぶりに訪れた主人と招かれざる客をいぶかし気な表情で迎えた。
「これは、フリード様。こんな間をあけずにお越しになるなど」
「すまないな、エグモント」
「旦那様も。先に早馬をくださればよかったのに」
咎めるような視線を受け流し、アルベルトは中を覗くようなしぐさをする。
「いいんだ。それより、カテリーナは?」
「畑に出ております。すぐにお呼びしましょう。御二方は中へ」
頭を下げたエグモントの誘いに、フリードは畑を見回す。
「俺たちが畑に行きませんか。話したいのは、あの花のことです」
丘の上に広がる紫色の花畑。その一角の白い花の集合。
まっすぐそこを指さすフリードに、エグモントは眉を寄せ、冷たく言い放つ。
「あれは食物になると申し上げたはずですが?」
「いい。エグモント」
止めに入ったのはアルベルトだ。
「旦那様」
「フリードはバカではないよ。こんな直接的な物言いをするということは、ある程度の証拠は掴んでいるんだろう?」
アルベルトの一言で、辺りがシン、とする。
「さすがは叔父上です。では認めていただけると? あの白い花。デス・カマスと呼ばれる毒草ではありませんか?」
フリードはアルベルトの表情の変化を追っていた。毒草を指摘されれば、もっとうろたえるかと思った。
しかし彼は、冷静な表情を崩さない。
(まさか、読み間違えたか?)
フリードは大きく息を吐きだした。酸素だけが失われたように、無性に息苦しい。