イケメン伯爵の契約結婚事情

やがて、アルベルトが口を開いた。どこか乾いた笑みを浮かべたままだ。否定されるかと思ったが予想外に吐き出されたのは肯定の言葉だ。


「そうだ。しかし、意図的に植えたものではない。鳥か何かが運んできた種が芽を出したもので、私が育てているのはこちらの青紫色のカマスの方だ」

「何を……」

「本当だ。白の花の方はもともと収穫などしないのだよ。ただ、紫と白のコントラストが美しいから鑑賞用に残しているだけだ」


アルベルトは平然と言い放つ。確かに今のところ出荷の記録は見つかっていない。しかし、誰がそんな言葉を信じるというのか。


「そんなこと信じられるはずがないでしょう」

「信じなくても構わんよ。だがそう言えばお前だってこれ以上俺を追い詰めることなどできんだろう。さっきも言ったが、お前は綺麗過ぎる。正攻法で人を叩こうとしても、相手によっては通じないこともある。覚えておくんだな」

「叔父上」

「……花の近くまで行こう。ふたりで話したいことがある」


アルベルトが先に立ち、フリードも後を追った。ディルクも当然のようについてきたのでフリードは彼を止めた。


「ディルクもここで待っていろ」

「そんな。危険です」


不満をあらわにするディルクを、アルベルトは一睨みする。

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