イケメン伯爵の契約結婚事情

「心外だな。俺がフリードに何かするとでも? 大事な領主であり可愛い甥っ子だぞ?」

「だからこそ、心配しているのです。失礼ながら、フリード様がいなくなって一番得をするのはあなたです」

「得などせんよ。あのご隠居が私を認めるはずなどないだろう。フリードが死んだら、今度は嫁いでいった娘でも呼び戻してでも、ご自分の血筋から領主をたてるだろう」


ご隠居とは領地内の別荘で療養生活を送っているフリードの祖母のことだ。アルベルトにとっては、義理の母親に当たる。夫の不実の子であるアルベルトを引き取りながら、愛情を注がなかった過去は、アルベルトの中に暗い影を落としているようだ。

フリードは昔のことを思い起こした。
祖母が屋敷の権力を握っていたころ、不当な扱いを受けながら屈せず前を向いていた叔父。
あの時は、彼が自分以上に綺麗な心を持っているのだと信じて疑わなかった。


「……いい。ディルクはここにいろ」

「しかし」

「そんなに心配なら刃物はすべて置いていこう。たまには叔父と甥とでゆっくり話そうじゃないか」


アルベルトは脇に収めている剣を取り出し、エグモントに渡す。
それを見て、フリードも短剣をディルクに渡した。


「フリード様」

「大丈夫だ。話をするだけだし、お前はここから見ていてくれ」


フリードはアルベルトの考えを知りたいと思い始めていた。
本当に領主の座を望んでいるのか。なぜ自分で推薦した妻を自ら殺すような真似をしたのか、その最終的な目的は何なのか。

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