イケメン伯爵の契約結婚事情
「中々結婚しないのはそのせいか? これでは詐欺だと言われても仕方ないものな」
楽しそうに笑うフリードに、エミーリアはぐうの音も出ない。
むくれていると、からかいの色を込めて畳みかけてきた。
「深窓の令嬢がイノシシを仕留めるほど勇ましいとは思わなかったと、ベルンシュタイン伯爵に伝えてもいいかな?」
「やめてよ!」
言ってからハッとする。思わず出た言葉は、これまでのフリードの推測が正しいことを裏付けてしまった。
「……お嬢様」
悲壮な声に後ろを向くとトマスは顔に手を当ててうなだれていた。
逆に楽しそうなのはフリードだ。今度は貴族らしく優雅に、エミーリアの手を取った。
「認めたところで教えてくれないか。これだけ美しいお嬢さんがどうして結婚しない?」
「……あなたが言った通りよ。本当の私は乗馬と狩りが好きなの。噂を聞きつけて求婚してくる人の想像している姿とは全く別物だわ。詐欺だと言われては外聞が悪いでしょう。しないんじゃなくてできないのよ!」
膨れたまま吐き捨てると、「伯爵の名誉のため……か」と呟き、フリードはクシャリと笑った。
その顔がなぜだか少し悲しそうに見えて、エミーリアは目を奪われる。
「なるほど。……では詐欺だとさえ言われなければいいわけだろう? 結婚自体は伯爵家にとってプラスになる」
黙っていると、フリードは勝手に納得したように続けた。