イケメン伯爵の契約結婚事情
「エミーリア嬢がなぜここに。……ちっ、あいつめ、しくじったのか」
「アルベルト様。侍女はカールが取り押さえました。ハチミツが毒なんでしょう? どうして? どうしてメラニーを狙ったの? フリードの奥方様も。彼の子供だっていたのに」
毅然とした態度で、エミーリアは、フリードの腕から離れ彼をかばうように前に立つ。
「どうしてそんなひどいことができるの!」
「エミーリア、やめろ」
更にかばおうとするフリードの手を何かが掠めた。
一瞬の間をおいて走った痛みに顔をゆがめる。
短剣を構え、睨みつけるようにこちらに向けているのはいつの間にか外に出てきていたカテリーナだ。
「フリードっ、大丈夫?」
人差し指と中指の間から、血が流れている。カテリーナが両手で握りしめている短剣からも、赤い液体が伝っていた。鉄さびに似た匂いが辺りに広がる。
「あらあら、相変わらずご寵愛されているのね、フリード様。お二人とも、お綺麗で嫌になるわ。正しい生まれ、美しい容姿、そのうえ相思相愛のご夫婦なんてね。神様は不公平にもほどがあるわ」
吐き捨てるように言い、短剣を向ける。
「カテリーナ、よせ」
「止めないで。デス・カマスのことがばれたんでしょう? あなたがすべて話したのも聞きました。ここでご領主を殺せなければ、私たちは終わりだわ」