イケメン伯爵の契約結婚事情

再び振り下ろされた短剣を避けるため、フリードが後ろに下がる。


「エミーリア様、こちらへ」


並ぶような位置に立ったトマスが手を伸ばす。足手まといになっては、とエミーリアが下がろうとしたとき、フリードが怪我をしたはずの左手で、エミーリアをしっかりと抱き寄せた。


「だめだ。離れるな」

「でも、私がいたら邪魔に……」

「ならない。俺の傍にいろ。何があっても守るから離れるな」


カテリーナの構える短剣をじっと見据えたままの言葉に、エミーリアの全身が熱くなった。


「……わかったわ。足でまといにならないようにする」

「そう願おう。……ディルク!」


呼ばれる前に、ディルクはフリードの盾になるように立った。


「すみません、剣を取りに行っていたら遅くなりました」


預けていた剣だ。服のいたるところに返り血がついているところを見ると、おそらくディルクは、室内でひと暴れしてきたのだろう。
証拠に、すぐ後にアルベルトの従者たちが帯剣したまま現れた。


「私も加勢します」


トマスが二人をかばうようにディルクの脇に立つ。フリードはその背中にささやいた。


「トマス。悪いな。預かりものは返せない」


何をこんな時に、と思いつつ、わざわざ宣言するフリードがトマスには好意的に映る。悔しいのを通り越して笑みさえ浮かんでいた。


「結構ですよ。約束だからと簡単に手放されるような人にエミーリア様はやれません」


緊迫した場面で交わされるフリードとトマスのやり取りを、エミーリアが疑問に思う隙もなく、剣がぶつかり合う金属音が響いた。
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