イケメン伯爵の契約結婚事情
ディルクとアルベルトの従者の間で始まったその戦闘に、トマスが加勢する。
フリードはエミーリアを左腕でしっかりと抱きしめながら、片手で器用に剣を操っていた。
力を入れるたびに、先ほど切り付けられた指の間からの血が出るのを見て、エミーリアは気が気ではない。
人数的にはもちろんアルベルト側が多いが、ディルクは軽い身のこなしで捌いていく。
普段優し気な従者は、剣を握ると人が変わったように冷徹だった。情けは無用とばかりに最初の一撃から急所を狙い。倒れた男を足蹴にすることも厭わない。
エミーリアは、フリードは領主なのに護衛が少ないと思っていたが、これなら、と納得させられた。
トマスもベルンシュタイン領では、エミーリアの護衛を一人で担えるほどの腕前だ。ひとりでふたりを相手にしても、まったく力負けなどしていない。
ひとりふたりと相手が倒れ、青ざめたままそれを見つめるカテリーナとアルベルト、扉に隠れるようにして戦場と化した庭を見つめているエグモントだけが残った。
ディルクもトマスも、肩で息をしながら領主の一言を待った。
「……毒の件で立証できようとできまいと、あなたたちは領主である俺に手をかけた。これで終わりですね」
フリードの宣言と同時に、ディルクがアルベルトの鼻先に剣を向ける。すでに血で汚れたそれは、とても切れ味がよさそうだとは言えなかったが、脅しには使えるはずだ。
「終わり……だと? 何が終わるっていうんだ」
「毒栽培をやめ、これまでの取引先からも手を引いてください。この土地を立て直すんだ」
「お前は本当に、……綺麗ごとばかりだ」
アルベルトがため息をついて肩をおとした、……と思ったらいきなり体ごとディルクにぶつかってくる。
予想外の行動にディルクはバランスを崩し、トマスを巻き込むように倒れた。