イケメン伯爵の契約結婚事情
「こっちも事情があってな。嘘でもいいから花嫁が必要なんだ。可能なら、契約と割り切ってくれて、ちょっとやそっとの事件では動じないような肝の据わった花嫁がいい」
「契約?」
「そう。俺は三ヶ月前に妻を亡くしたばかりだ。今のところ新しい女など考える気はない。……結婚したという事実だけが欲しいんだ。あんたにその気がないなら、妻としての役割は求めない。期限は俺が二十歳になるまで。あと一年だけでいいんだ。それが過ぎれば、あんたの意志を尊重してやる。離婚にも応じよう」
「一年でいいの?」
実際にはあまりないが、離婚が認められていないわけじゃない。
外聞は悪いが、一度も結婚もせずに歳を重ねていくよりは、親も体面が保てるだろう。
それからまた求婚話が来るかどうかは疑問だが、エミーリア自身、そこまでして誰かの所有物になりたいわけでなかった。
一年我慢して、無事に離縁してここに戻ってこれれば、後は昔のように狩りを楽しみ、自由に生きても、
誰も文句など言わないのではないだろうか。
(……案外、好都合?)
頷きかけたエミーリアを止めたのはトマスの一言だ。
「失礼ですがフリード様。エミーリア様はベルンシュタイン家の大切なご令嬢です。私は、お嬢様が幸せになるのを願い続けてきたんですよ? 契約結婚など賛成できるはずないではありませんか!」
「トマス」
さすが、兄妹のように育ってきた従者だ。
結婚は家のためと割り切ってはいるが、やはりそんな軽々しくするものでもないだろう。
感動してやっぱり断ろうと意を決したタイミングで今度は意地悪な声がふたりを割った。