イケメン伯爵の契約結婚事情
「さっさと行きなさい。あなたたちには何も渡さない。この土地ごと、燃えて消えてやるわ。ここだけが私のものよ……ゴホッゴホッ」
火の手の近くで大声を上げているカテリーナは、思い切り煙を吸い込んだ。エグモントが引きずり出そうとしているが、老体ゆえに抵抗する女主人を動かすことは難しそうだ。
「エミーリア、先に戻れ。俺が叔母上を運ぶ」
「だめよ。あなたは手を怪我してる」
「それでもお前よりは力はあるよ」
それはそうだろうとは思ったが、エミーリアは彼の腕を離さなかった。
卑怯だとは思うが、カテリーナとフリードの命を天秤にかけるなら、エミーリアには間違いなくフリードのほうが重い。
どうしても火の手が上がっている奥の部屋には向かわせたくなかった。
「フリード様、私が行きます」
見かねたディルクがそう言いだしたとき、「どけ」と低い声がした。
エミーリアたちを押しのけるようにして前に出たのは、アルベルトだ。
「叔父上」
「カテリーナ。早く出てこい。何をしているんだ」
「あなた」
パチ、と火のはぜる音がした。熱風に、誰もが目を細める。
カテリーナは涙を流しながらアルベルトをにらんだ。