イケメン伯爵の契約結婚事情
「……この結末だって叔父上が自分で選んだんだ」
叔父は母と叔母上、どちらを愛していたのだろう。
母を愛していたなら、死にはしないはずだ。母の頼みの綱は叔父だけなのだから。
フリードは背中を預けてくるエミーリアが、そっと見上げているのに気付いた。薄茶の瞳は、あたたかな毛布のように、柔らかくあたたかくフリードをほぐしていく。
「エミーリア」
「大丈夫?」
「……ああ」
叔父がいなくなったことで、毒に関するもろもろは解決するだろう。しかし、領土を管理するうえでは、叔父がいなくなれば負担はすべてフリードにのしかかる。
フリードはエミーリアの頭頂部に唇を寄せる。
叔父がいない今、自分が頑張らなければならない。疲れ切った心には新たな支えが必要だった。
「……俺には異父弟がいるらしい」
「えっ?」
「会いに行こうと思っている。一緒に、……来てくれないか?」
「いいわよ。もちろん」
快諾したエミーリアの手を、力を込めて握りしめる。
「これから領土も立て直しだ。一年や二年じゃ済まないだろう。先は長い。だから……」
青く澄んだ瞳が、エミーリアをしっかりとらえた。
「新たな契約をしてほしい。俺を支えてほしいんだ。もちろん、乗馬も狩りも許可する。その代り……」
続きは小さな声で、耳元で語られた。周りを走るトマスたちには聞こえないだろうが、真っ赤になったエミーリアの態度で、内容自体はばれたかもしれない。
「返事はあとでいい」
「は、はい」
カチコチになりながら、エミーリアは首振り人形のように何度もコクコクうなづきながら、彼の言葉を反芻する。
『一生傍にいて、俺の子を産んでほしい』
これは正式なプロポーズではないのか。
聞き間違いではないのかと疑いながら頬を抑える。
「後で、私もあなたに言いたいことがあるの」
小声すぎて聞こえなかったのか、フリードからの返事はなく、そのあとは黙ったまま馬を走らせていた。