イケメン伯爵の契約結婚事情
「ここ、間違えてますわ」
「あ。……もう、やっぱり私には無理じゃないかしら」
「ご自分で言い出したのに何をおっしゃいます」
「だって、やっぱりメラニーが作ったもののほうが綺麗だもの」
「でも気持ちは、こちらのほうがずっとこもっているじゃありませんか」
今エミーリアは、刺繍のベッドカバーを一から作り直している。
きっかけは、倒れて何もできないことを嘆くメラニーに座っていてもできる仕事を与えたかったことだが、フリードへの恋心を自覚するとともに、ベッドを彩るメラニー作のベッドカバーにいたたまれない気持ちを抱えるようになっていたエミーリアにとっては好都合な思い付きだった。
もう一度、自分で刺した刺繍のベッドカバーを携えて、求婚しなおす。
一年だけじゃなく、ずっとフリードの妻でいたいと伝えようと思っていた。
実際には、フリードのほうから求婚されなおされ、伝えずとも結果は自分の思うとおりになってはいるのだが、初めての夜までにできれば完成させたいと必死になっているところである。
「……でも、こんなの見せたらあきれられるばかりだわ、きっと」
「そうでしょうか。そう思うのでしたら、エミーリア様はまだまだフリード様のことをご理解なさっていないんですわ」
メラニーは自信ありげに頷き、やがて真顔に耐え切れなくなったのかにやつく口元を抑えてキャーと騒ぐ。