イケメン伯爵の契約結婚事情
「エミーリア様を見てる時のフリード様ったら、もう。すごい優しい目をいていて、こっちがドキドキするくらいなんですからっ」
「そ、そう」
それはうれしいのだが、メラニーの興奮具合にちょっと引いてしまう。
ミーハー心は健在だ。どうやら体調はすっかり元に戻ったらしい。
「さあ、頑張って仕上げてしまいましょう?」
「そうね。頑張るわ」
指先は針のひっかき傷だらけだ。治るころには新しい傷を作ってしまい、見せられたものではない。
彼が忙しいのも、この点においてだけは好都合だ。
エミーリアはフリードを想う。
自分をかばってくれた時に負った手の怪我はもう完治しただろうか。
無理はしていないだろうか。
忙しいのはわかるのだけれど、顔くらい毎日見せてほしい。
一目一目、思いを込めて針を刺す。
あなたに会いたい。一緒に食事をしたいし、話がしたい。笑いあえたなら最高だ。
それが叶わぬ今を想うと、泣きたいような気持になる。
こんな自分を、嫁ぐ前は想像もしなかった。