イケメン伯爵の契約結婚事情


 その夜。夜着に着替えたエミーリアは、落ち着かずに部屋中を歩き回っていた。夕食時にもフリードはまだ帰宅していなかった。本当に今日のうちに戻って来るのかと不安が募るばかりだ。

やがて、足音がしたかと思うと挨拶もそこそこに扉が開く。エミーリアは一気に緊張して、体がうまく動かなくなるのがわかった。
しかし、入ってきたフリードを見て、唖然とする。
彼は颯爽とした態度ではあったが、顔が青く、頬がこけていた。


「どうしたの、その顔」

「なかなか休む暇がなくてな。元気だったか、エミーリア」

「元気よ。大変なら、言ってくれれば何か手伝えたかもしれないのに」


眉を寄せて批難するエミーリアに、フリードは柔らかく笑った。


「いい。やつれたお前など見たくないしな。元気な姿を見るのが一番の薬ってもんだ。それより、お前に渡すものがある」


フリードが差し出したのは乗馬服一式だ。


「これは?」

「服のサイズはメラニーに聞いたからあってると思う。……驚かせたくてな、内緒で頼んでおいたんだ。ようやく今日出来上がってきた」

「じゃあこれを着てムートに乗っていいの?」

「ああ。どこでも一緒に行こう。取り急ぎ、今一番行きたいところは母上のところなんだが」

「お母さま?」

「ああ。実はな……」


フリードは近くの椅子に座り、目を伏せたまま、叔父の屋敷で聞いた話をエミーリアに聞かせた。
叔父とつながりがあった母のこと。叔父が異父弟を世継ぎにさせたかった事などだ。
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