イケメン伯爵の契約結婚事情
「世継ぎどうこうは置いておいて、弟には一度会っておこうと思う。必要ならばこちらに呼び寄せて教育を施してもいい」
「いいの?」
「叔父上と母上の子なら、うちの血筋であるのは間違いないしな。母上も叔父という後ろ盾がなくなればこちらで保護しなければ生きていけないだろう。ばあさまが何か言うかもしれんが、そこは俺が何とかする。……ところで」
フリードは、エミーリアの顎を上げ、顔を自分のほうに向かせる。
「……この間の返事が聞きたい」
「えっ、は、はい」
「一年で自由にするという契約は破棄だ。エミーリア、俺は君に一緒にいてほしい」
ぐいぐいと近づいてくる夫に、エミーリアの心臓は爆発しそうだ。
いつもの快活さはどこへやら、「えっ、あっ、あの」と口を出る言葉はまっとうなものにならない。
「嫌なのか、エミーリア」
悲しそうに眉を下げる彼に、エミーリアはついに耐えられなくなった。
ぱっと離れてベッドに向かい、ベッドカバーを指し示す。
「これを見て」
「……なんだ? これ」
「わ、私が刺繍したの。これでも精一杯。指は針の穴だらけだし、模様はガタガタだし。……でも、これが私なの。あなたを想って、縫い上げたの」
恥ずかしさで声が上げられない。見ているのも嫌になるへたくそな刺繍を指でなぞりながら、エミーリアは精一杯の思いを口にする。
「あなたがそんな風に言ってくれる前から縫ってた。嘘の自分じゃ嫌になったから。あなたに、……本当の私を見てほしかったから」
フリードは言葉もなくベッドカバーに見入っている。
やはり呆れられるのかと思ったら、涙が浮かんできた。