イケメン伯爵の契約結婚事情
「そうか。では、噂の令嬢がこんなお転婆だと、人にばれてもいいんだな? 伯爵の立場もなかろうに」
そのセリフに今度は一気に青ざめる。
今までせっかく“内気すぎる令嬢”という噂を守り続けてきたのに、違ったとなれば父親の信用問題にも係る。
「いけません」と止めるトマスを振り切って、エミーリアは頷いた。
「……いいわ。契約の話、受けるわ」
「お嬢様!」
トマスが非難の声を上げ、エミーリアをかばうように前に立ち、フリードを睨みつける。
「いけません、こんなおかしな話があるわけないじゃないですか。絶対に裏がありますよ」
「裏はあるよ」
あっさりとフリードが認める。
「しかし、それを説明するにはお家事情まで話さなければならないからな。嫁ぐつもりのない人に教えるわけにはいかない」
「……嫁いだら教えてもらえるの? その後離婚するとしても?」
「離婚できる頃には片付く問題だからな」
「なるほど」
フリードの言葉を信じるならば、期間は一年。そう悪くない条件だとエミーリアには思えた。
それよりも、今父親に狩りに出ていたのがばれ、失望されることの方が恐ろしい。
「いいわ。契約する」
「お嬢様!」
叫ぶトマスにフリードはゆったりと笑いかけた。