イケメン伯爵の契約結婚事情


 目の前のテーブルには、朝だというのにたくさんの皿が並んでいる。
毒の危険性がなくなり、久しぶりに広間で食事をとっているのだ。


「こんなには食べられないと俺は言わなかったか?」

「すみません。うれしくてつい」


頭をかくのはカールだ。せっせと出来たての料理を運んできては、歓声をあげるエミーリアを嬉しそうに眺めていく。


「食べきれないならディルクにも一緒に食べてもらいましょうよ。どうせそこで立っているだけじゃないの」

「いえ、奥様。私にはそのようなことは」


恐縮するディルクに、フリードは笑いながら席に着くように言う。


「諦めろ、ディルク。エミーリアは言い出したらきかないよ。さっさと座って料理を減らしてくれ」

「しかし」

「メラニーもトマスもお座りなさいよ。カールの料理はおいしいわよ」


言われて、ふたりも困ったように頭をかく。


「お先にどうぞ、メラニー」

「や。恐れ多くて食べられませんわ、私」


ぶんぶんと首と手を振って恐縮する侍女に、フリードがやんわりと笑いかける。


「じゃあ君には俺の妻を楽しませる役目を命じようか。楽しい話を聞かせてほしいんだろう? なあ、エミーリア」

「ええ、だからここに座って、メラニー」

「もう、あり得ませんわ。息が合いすぎですお二人とも」


真っ赤になって困るメラニーに、助けの手は予想外のほうからやってきた。


「あ、あの、侍女殿はこちらを手伝っていただけませんか?」


緊張した様子で上ずった声を出したのはカールだ。
途端にメラニーの顔が晴れ渡る。

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