イケメン伯爵の契約結婚事情
それはいいのか悪いのか。遠回しにけなされたようでエミーリアは憮然とする。
それにしても、フリードは内緒でことを進めすぎるのではないか。いつもメラニーのほうが先にいろいろなことを知っている気がする。
(私が先に知りたいのに)
鏡越しにメラニーを見れば、邪気のない笑顔を返される。
嫉妬めいた気持ちを抱いた心に、罪悪感という針がチクリとささった。
「さあ、御髪はこんな感じでよろしいでしょうか」
「いいわ。ありがとう。ごめんね、メラニー」
「はい? なんのことです?」
今日は邪魔にならないようにしっかり結い上げている。体のラインに沿った乗馬服と合わせるときつい印象を与えそうなものだが、エミーリアの愛らしさは損なわれない。むしろ、恋心を自覚した分、内側から女性としての魅力が香り立つようだ。
「来たか。遅いぞ」
外で、エミーリアを迎えたフリードは満足そうにその姿を見つめると、突然目元のほくろに唇を落とした。
「ちょ、フリード」
「行くぞ」
そして身をひるがえすとあっさりと自分は黒の愛馬に乗ってしまう。
一体何なのだ、と不満げにムートに乗ったエミーリアに、ディルクが苦笑しながら近づいてきた。
「不器用な方なのですみませんね。エミーリア様のお姿に見とれて言葉もなかったのだと思いますよ」
「じゃあなぜ行動は出るのよ」
言い返すと、後ろに控えていたトマスがぼそりという。
「だから、あなたにそれだけの隙があるんですって。そもそも嬉しいんでしたら、憎まれ口をたたく必要もないわけですよ」
確かに嬉しくないわけではないので、エミーリアはぐうの音も出ない。
「無駄話をしていないで行くぞ」
フリードの一声で、一行は動き出す。
フリードとエミーリア。それにディルクとトマス。
相変わらず領主のお付きとしては少人数だが、ふたりの実力を知っているエミーリアはとても安心していた。