イケメン伯爵の契約結婚事情
*
西地区は平野が多いが、北西の方角に舵を切ると高度が上がり、高原の別荘地が現れる。
その中でも最も山手に近いところに、フリードの実母の実家、クレーマン家の別荘があった。
「ここか」
屋敷はいかにもさびれている。壁にはツタが這い、庭の草は高さがそろっていない。
呼び鈴に、迎えに出たのは老執事だ。フリードの姿を見るなり、まるで幽霊でも見たように「ぼっちゃま?」と何度も繰り返す。
「母上は……ジモーネ=クレーマンはいるか?」
「本当にフリード坊ちゃまでございますか?」
「俺のことを知っているのか?」
フリードはよく覚えていないが、老執事はまだ両親が仲睦まじいころ、母親の実家で執事をしていたらしい。里帰りの時に会ったフリードの面影をずっと覚えていたというのだ。
「何を騒いでいるの、ハンス」
やがて奥から出てきたのは豊かな金髪の美しい女性だった。エミーリアは見た瞬間に、彼女がフリードの母親だと気付いた。そのくらい、ふたりは似ていたのだ。
「母上、お久しぶりです」
「フリード? どうして?」
母親は青年を凝視した。やがて震えたまま手を伸ばし、フリードの頬を触る。すでに目には涙が浮かんでいた。
「私のフリード。何年振りなの? まさかあなたにまた会えるなんて。こちらのお嬢さんは? 再婚なさったと聞いたわ」
「そんな情報、こちらではいるのですか」
さびれた地域だ。
ここが別荘地として人気なのは、情報も入らず現実を忘れられる場所だからに他ならない。
西地区は平野が多いが、北西の方角に舵を切ると高度が上がり、高原の別荘地が現れる。
その中でも最も山手に近いところに、フリードの実母の実家、クレーマン家の別荘があった。
「ここか」
屋敷はいかにもさびれている。壁にはツタが這い、庭の草は高さがそろっていない。
呼び鈴に、迎えに出たのは老執事だ。フリードの姿を見るなり、まるで幽霊でも見たように「ぼっちゃま?」と何度も繰り返す。
「母上は……ジモーネ=クレーマンはいるか?」
「本当にフリード坊ちゃまでございますか?」
「俺のことを知っているのか?」
フリードはよく覚えていないが、老執事はまだ両親が仲睦まじいころ、母親の実家で執事をしていたらしい。里帰りの時に会ったフリードの面影をずっと覚えていたというのだ。
「何を騒いでいるの、ハンス」
やがて奥から出てきたのは豊かな金髪の美しい女性だった。エミーリアは見た瞬間に、彼女がフリードの母親だと気付いた。そのくらい、ふたりは似ていたのだ。
「母上、お久しぶりです」
「フリード? どうして?」
母親は青年を凝視した。やがて震えたまま手を伸ばし、フリードの頬を触る。すでに目には涙が浮かんでいた。
「私のフリード。何年振りなの? まさかあなたにまた会えるなんて。こちらのお嬢さんは? 再婚なさったと聞いたわ」
「そんな情報、こちらではいるのですか」
さびれた地域だ。
ここが別荘地として人気なのは、情報も入らず現実を忘れられる場所だからに他ならない。