イケメン伯爵の契約結婚事情

「時折訪ねてくれる人がいるのよ。その人がいろいろ教えてくれるの」


母親はかすかに染まった頬を隠すように手を当てた。どこか冷めた気持ちで、フリードは目を細める。


「……叔父上ですか」


その一言で、嬉しそうだった母親の表情は固まった。
フリードとの距離を開け、探るようにじろじろと見つめる。


「フリード。どうしてここが分かったの?」

「聞いたのですよ。すべてを知る人から」

「そんな、……言うわけないわ。あの人が」


動揺を隠せない母親に、フリードは静かに目を伏せた。


「ええ。最期だと覚悟していたから言ったのかもしれません。……叔父上はお亡くなりになりました」


母親の口から小さな悲鳴が漏れる。再会の喜びからの涙が、悲しみのものへと変わった。


「あの人が、死んだの? 嘘よ」

「俺には弟がいるそうですね。会わせてもらえませんか?」

「いやああああ、アルベルト、アルベルト」


半狂乱になって騒ぐ母親は、頭を抱えてうずくまる。すぐに老執事が駆け寄ってきた。


「奥様、落ち着いてください」

「嫌よ、離して。探しに行くわ、アルベルトを」


うずくまり震えだした母親を、おろおろと老執事が支えようとする。


「部屋まで運ぼう。ディルク、手伝ってくれ」


フリードの指示に従うディルクを、遠くからこっそり見ている人影があった。

サスペンダーをつけた茶色のズボンに白いシャツ。ショートヘアに優し気な顔をした、線の細い少年だ。
心配そうに運ばれていく母親を見ている。エミーリアと目を合わせると体をびくつかせながら、姿を隠す。

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