イケメン伯爵の契約結婚事情


「待って」


エミーリアは自然に追いかけていた。すぐそのあとをトマスが追い、母親が連れていかれるのを確認してからフリードが追った。

少年は、エミーリアよりも背が低かった。ダークブロンドの髪のせいで肌の白さが際立って見える。

彼がフリードの異母弟なんだろうか。しかし、今まで聞いた話から考えると、異母弟との年齢差は六歳ほどだ。
であれば十三歳ということになるが、それにしては目の前の少年はもっと幼く映る。


「あなた、名前は?」


エミーリアが先になって近づくと、少年は彼女を上から下まで値踏みするように見た後、ぽそりと言った。


「マルティン」


すうと耳を通っていく高い綺麗な声に惹きつけられる。

エミーリアは改めて少年を見つめる。容姿はアルベルトに似ていた。整った顔も、ダークブロンドの髪も、彼の面影がある。けれどどこかに違和感があった。


「あの、お母さまは大丈夫ですか」


おずおずと顔色を窺うように言う。


「どうだろう。少し興奮しているから休ませてあげよう。初めましてマルティン、俺はフリード。こっちは妻のエミーリアだ」


フリードが腰をかがめるようにして自己紹介する。


「初めまして。マルティンです。僕、お母さまのところに行ってもいいですか。僕がいないと、寂しがるんです」

「もう少し落ち着くのを待ったほうがいいだろう。少し話さないか? そうだな。君の好きなものを教えてほしい」

「好きなもの……?」


マルティンは小首をかしげて、踵を返して奥に向かう。いぶかし気に顔を見合わせていたら、やがて一冊のノートを持って戻ってきた。

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