イケメン伯爵の契約結婚事情


「えっと、僕の好きなものは、チェスと弓です」


そして書いてある通りに読み上げる。
鈴がなるような軽やかな声だけに、違和感が感じられる。


「このノートは何だい?」

「お父様がくれました。僕のことがすべて書いてあるんだって」

「ちょっと見せてくれないか?」


そこには、名前、生年月日、性格、得意科目などがつらつらと書いてあった。日々の予定や、年間で習得すべき技術などまで書いてある。

しかし、フリードは眉を顰める。【性格:快活】などと書いてあるが、どちらかといえばおっとりした少年だと思えたからだ。


「フリード様、エミーリア様。先ほどから気になっていたんですが、この方……」


トマスは二人にしか聞こえないように小さな声で囁く。


「女の子ではないですか?」


言われて、エミーリアも違和感の正体に気付く。

男の子として見るから、おかしいのだ。
高い声も線の細さも、十三歳の令嬢と考えれば特におかしくはない。
敢えて注意深く胸元に目を向ければわずかにふくらみがある。

途端に、このノートに嫌悪感が沸く。

もし本当にこれをアルベルトが渡したのだとしたら。
彼はこの子本人を認めず、ただ理想の時期領主としての像を押し付ける人形として扱っていたということになるではないか。


(性別まで偽らせて……?)


そこまでして、アルベルトはクレムラート家に復讐したかったのか。

たまにしか会わない父親の願いなら、子は叶えようとするかもしれない。
その純粋な心を利用したというのか。


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