イケメン伯爵の契約結婚事情


 それから半年の時が過ぎた。
今日はフリードの二十歳の誕生日でもあり、ふたりの婚礼式の日でもある。

領主の館で行われるお披露目には、近隣の領主が集まっている。もちろんベルンシュタイン伯爵もだ。
すぐに顔が見たかったが、着替えが終わらないエミーリアは自室でメラニーに怒られ続けている。


「エミーリア様! じっとしていてくださいってば」

「だって。お父様がきたっていうから」

「着替えが終わってから行ってください。ほら動くから髪飾りが傾いちゃったじゃないですか」


バラ色の唇も陶器のような白い肌も、フリードと心を通わせるごとに美しさを増していく。

今日はバラの刺繍が細かく施された白いドレスを身にまとい、髪は生花のバラで彩られているが、衣装に負けず、エミーリアそのものが美しい一輪の花のようだった。


「お姉さま、せっかくのお召し物が汚れてしまいます。もう少し我慢ですよ」

「そうですよ。マルティナ様のほうがよほどおしとやかですわ」


メラニーに褒められまんざらでもない顔をしているのは、名をマルティナと改め、クレムラート家に養子に入ったマルティンだ。

半年前、エミーリアが彼女に最初にしたことは、女物の服を着せ、言葉遣いを直させることだった。

「女性らしくしないとだめよ」と説くたびに、メラニーやトマスから苦笑されるのが屈辱ではあったが、素直にエミーリアの言葉を受け入れていくマルティナは可愛らしく、下の兄弟がいなかったエミーリアは今は本当の妹のように思っている。

今日はマルティナのお披露目も兼ねているため、こちらも豪奢な薄グリーンのドレスを身にまとっている。胸元と裾にフリージアの刺繍があり、清楚なイメージだ。髪はまだ肩辺りまでしか伸びていないが、ぎりぎり結い上げることが可能なので、ボリュームはつけ毛で何とかすることにした。

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