イケメン伯爵の契約結婚事情
やがて、フリードがつかつかと入ってくる。
彼も今日は正装をしている。白いシャツに燕尾服をまとった彼は一段と男らしく見える。
「エミーリア、義父上と義兄上がお待ちかねだ」
「えっ、お義兄様もいらしてるの?」
「ああ。ついでにハチミツやジャムの取引についても相談することになっていてな。ベルンシュタイン家では義兄上がそのあたり担当しているというものだからな。……というのは建前で、きっとお前に会うのを楽しみにしていらしたんだろう。用意ができたならすぐ来い」
「ええ」
フリードが戻っていくのと同時、エミーリアは立ち上がった。
「もうこれで十分。ありがとう、メラニー。さあ、マルティナ行きましょう。私の父を紹介するわ。あなたにも父親みたいに思ってもらえたら嬉しい」
「お姉さまのお父様?」
マルティナは、アルベルトの死についてはあっさりと受け入れた。しかし、母親の死のほうは、なかなか受け入れることができなかった。
救ったのは、フリードだ。小さい時に離れ離れになった母の記憶を掘り起こし、思い出を語る。共通する部分があったのだろう、マルティナもぽつりぽつりと思い出話をし始める。
思い出の共有が、ふたりの距離を縮めた。
『母が同じなんだ。君は俺の妹。だから俺と一緒に来い』
フリードが差し出した手を、マルティナはためらいながらもとった。
見知らぬ屋敷に来て落ち込み気味だったマルティナは、エミーリアとメラニー、トマスに囲まれて毎日騒がしくしているうちに徐々に元気を取り戻したのだ。
「父は歌が好きなのよ。あなたの歌を聞かせたらきっと喜ぶわ。行きましょう?」