イケメン伯爵の契約結婚事情
向かう先は大広間。たくさんの賓客に挨拶をしながら中に入っていくと、人をかき分けてやってきた父親の抱擁の洗礼をうけた。
「はは。会いたかったぞ、エミーリア。フリード殿とは仲良くやっているようだな」
「お父様! 元気よ。お父様こそ元気?」
「ああ元気だ。娘がいなくなって少し寂しいがな。……おっと、こちらのお嬢さんがマルティナどのかい?」
どうやらフリードが道々事情を説明していたらしい。
「は、初めましてマルティナです」
「これは可愛らしい」
「きゃっ」
ベルンシュタイン伯爵は、娘にそうするように彼女を抱き上げる。
「軽いな。ちゃんと食べさせてあげなきゃダメじゃないか、エミーリア」
「あら、失礼ね。食べ物ならカールがちゃんと……」
と言ったところで、後ろに控えるトマスが咳ばらいをする。
「伯爵。マルティナ様が驚いていらっしゃいますよ。子煩悩なのはいいんですけど、初対面でそれでは」
「おおそうか」
離されたマルティナは、そそくさとトマスの後ろに隠れる。
「はは。まるで昔のエミーリアのようだな。トマスにべったりか」
その言葉に、今度はフリードが過敏に反応する。
「そうなんですか? エミーリアはトマスに?」
「おお。小さいころから面倒を見させていたものでな。親よりもトマスに懐いたもんだ」
がははと大柄に笑う伯爵に、嫉妬を抑えつつ愛想笑いをするフリード。
それを見ながら、兄のギュンターが穏やかに笑う。
「……父上はもう少し空気を読んだほうがよろしいのでは」
「なに?」
「どうやらフリード殿はずいぶんとわが妹にご執心らしい。父上の一言のせいで顔がこわばっておりますよ」
「えっ、これは失礼を」
フリードも慌てて眉間を抑える。ベルンシュタイン伯爵は笑いながらフリードの背中をたたいた。