イケメン伯爵の契約結婚事情
*
数日後、ベルンシュタイン伯爵は駆け足でエミーリアの部屋を訪れた。
ちょうど、侍女のメラニーから出来上がった刺繍のベッドカバーを受け取ったばかりのエミーリアは眉を寄せ、息を切らせた父親を見つめる。
「エミーリア。お前いつからクレムラートのフリード殿と文通などしていたのだ」
(あら、もう来たの)
フリードの素早い行動に感心する。早々に花嫁が必要だというのは本当なのだろう。
エミーリアは考え込むようにうつむいた。
それを、娘らしい恥じらいと解釈した伯爵は、普段見ることのない娘のしおらしい姿に驚いて、「怒らないから言ってごらん」と優しく先を促した。
「ええっと。以前から噂だけは聞いていたのだけど、まだ結婚して一年の奥様がお亡くなりになったと聞いたから。……可哀想で、お悔やみを出したのよ。それで……」
エミーリアは事前にフリードやトマスと口裏を合わせていた理由をたどたどしく告げる。
伯爵の脳内はそれを拡大解釈した。
エミーリアを社交界デビューさせたときの晩餐会には、クレムラート家にも招待状を出していた。すでに記憶が定かでないが、おそらくフリードが来ていたのだろう。
エミーリアは、そのときに彼にひとめぼれしたのかもしれない。だとすれば、その後の彼の結婚話にはきっと意気消沈しただろう。
中々刺繍が上達しなかったのは、結婚そのものに対して絶望していたのかもしれない。
……であれば、決死の思いで出したお悔やみ状だったのだろう。親にも内緒にするくらいだ。
そして娘の思いは、きっと青年に届いたのだ。
妄想にとらわれた伯爵は、若干の矛盾など気にしていなかった。
それがあたかも事実であるように思いこみ、目を潤ませてエミーリアの肩を優しく撫でる。
数日後、ベルンシュタイン伯爵は駆け足でエミーリアの部屋を訪れた。
ちょうど、侍女のメラニーから出来上がった刺繍のベッドカバーを受け取ったばかりのエミーリアは眉を寄せ、息を切らせた父親を見つめる。
「エミーリア。お前いつからクレムラートのフリード殿と文通などしていたのだ」
(あら、もう来たの)
フリードの素早い行動に感心する。早々に花嫁が必要だというのは本当なのだろう。
エミーリアは考え込むようにうつむいた。
それを、娘らしい恥じらいと解釈した伯爵は、普段見ることのない娘のしおらしい姿に驚いて、「怒らないから言ってごらん」と優しく先を促した。
「ええっと。以前から噂だけは聞いていたのだけど、まだ結婚して一年の奥様がお亡くなりになったと聞いたから。……可哀想で、お悔やみを出したのよ。それで……」
エミーリアは事前にフリードやトマスと口裏を合わせていた理由をたどたどしく告げる。
伯爵の脳内はそれを拡大解釈した。
エミーリアを社交界デビューさせたときの晩餐会には、クレムラート家にも招待状を出していた。すでに記憶が定かでないが、おそらくフリードが来ていたのだろう。
エミーリアは、そのときに彼にひとめぼれしたのかもしれない。だとすれば、その後の彼の結婚話にはきっと意気消沈しただろう。
中々刺繍が上達しなかったのは、結婚そのものに対して絶望していたのかもしれない。
……であれば、決死の思いで出したお悔やみ状だったのだろう。親にも内緒にするくらいだ。
そして娘の思いは、きっと青年に届いたのだ。
妄想にとらわれた伯爵は、若干の矛盾など気にしていなかった。
それがあたかも事実であるように思いこみ、目を潤ませてエミーリアの肩を優しく撫でる。