イケメン伯爵の契約結婚事情
「それもそうね。……マルティナ、こういうドレスは嫌い?」
小首をかしげてマルティナを見るエミーリアに、マルティナは困ってしまう。
(どうしよう、エミーリア様を悲しませたいわけじゃないのに)
おろおろしながら言葉を見つけられずにいた彼女の背中がポンと優しく叩かれる。
「……トマス様」
「様はいりませんよ、マルティナ様。それより、ご自分の気持ちをちゃんとお伝えなさい。エミーリア様はあなたの気持ちを無視したりはしませんよ」
「え、えっと」
マルティナは再びしどろもどろになる。
頭がいい、とは言えなかった。学校には行っていないし、家庭教師も途中から来なくなった。
アルベルトは屋敷に来ると必ずマルティナに音読を強要したが、たどたどしくしか読めなくて、いつ叱られるかと思ったら内容なんてまったく頭に入らなかった。
さんざん考えて、頭に浮かんだ単語を並べていく。
「嫌いじゃ、ないです。とっても綺麗。でも、僕に似合うとは、思えないし」
「あら」
意外なことを言われた、というような顔で、エミーリアは両腕を組んだ。
「……ってことは、あなたに似合うって思えればいいのよね? メラニー!」
「はい。でしたら、こちらに」
メラニーがマルティナを鏡の前に連れていく。
マルティナは助けを求めてトマスを仰ぎ見たが、エミーリアによって「ちょっと出ていなさい、トマス。後で感想を聞きたいから、呼ぶまで入っちゃだめよ」と追い出されているところだった。
唯一の助けを失った気分でマルティナは膝の上に乗せた自分のこぶしを見つめる。