イケメン伯爵の契約結婚事情

エミーリアもフリードも、自分を妹だと言って、世話を焼こうとしてくれる。それは嬉しいのだがいまだ実感がわかない。本当にここにいていいのか、と時折いたたまれなくなる。


髪の毛がブラシで梳かされた。
シュッシュッっという軽やかな音とともに、メラニーの細い指が目の前を移動していく。


「まだ短いから違和感があるんですわ。前髪をこうねじり上げて、お顔を出しましょう。髪飾りを耳下につければ、結い上げた感じに見えますから短さが気にならないでしょう」

「そうね。さすがはメラニー。……ねぇ、マルティナ。あなたはとても綺麗よ。アルベルト様に似たのね、目に力があって、きっと人の目を引き付けるわ。……その瞳に、おどおどした態度は似合わないわよ」

「……エミーリア様」


アルベルトが、本当は兄のフリードにとっては叔父にあたる、ということを、マルティナはごく最近聞いた。
そもそも、母が領主の妻だったことさえ、マルティナには初耳だったのだ。

たまにしか来ない父が、母親と本当の夫婦ではないことは想像がついていた。
会話から、父であるアルベルトが、マルティナのことを本当に男だと信じていたことも。

なけなしの知識と想像力を働かせて想像した筋書きは、愛人関係にあった母が、男の気を引くために赤子を男だと偽ったのだろうというものだった。
だとすれば自分にすべきことは、アルベルトの気に入るような息子でいることだ。

だからこそ、アルベルトの考える理想の息子とその生活を記したノートを与えられた時にはほっとした。
この通りにしていれば、自分は愛されるのだと思っていたから。

しかし、エミーリアの言う通り、性別はいつまでもごまかせるものではない。

年々少なくなるアルベルトの訪問は、自分の性別がバレたせいではないのかとマルティナはずっとひやひやしていた。

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