イケメン伯爵の契約結婚事情
「ほら、これなら似合うでしょう?」
エミーリアの声に我に返る。鏡には、ほんのりと化粧を施された自分の顔があった。白い小さな花を集めた髪飾りは顔周りを華やかにし、首から上部分だけを見ればそれこそお人形のような顔になっている。
「これが僕?」
「ほら、これなら今の格好のほうが変でしょ? さ、ドレスを着てみて。髪飾りが白だからどの色でもきっと似合うわ。丈は少し長いかもしれないけど、足を引っかけるほどじゃないでしょう?」
並べられたドレスはどれもエミーリアの持ち物だ。
背はエミーリアのほうが高く、足先までの長さのものなら確実にサイズは合わない。しかし、エミーリアの服は基本動きやすさを重視していて、裾丈も短めなものが多いため、マルティナが着ても、おかしくはない。
「でも僕」
「ほら、僕ってのもおかしいわ。『私』って言えない? まあ、無理にとは言わないけど」
先ほどのトマスの忠告を受けてか、幾分やんわりとエミーリアが指摘する。
気を使ってもらえているのがわかって、マルティナももうどうどでもなれ、という気分になってきていた。
「ぼ、わ、私、これを着てみたいです」
ワインレッドのドレスだ。父が屋敷に来るときに、母がよく着ていた色。
父がいる間は母が優しく、マルティナにとっては安らぎの傍にある色だった。
「ずいぶん大人っぽい色を選んだのね。いいわ。大丈夫。メラニー、お願い」
「ええ。でしたら、ここにクリーム色のレース襟を付けたらよろしいかと。マルティナ様のお年に似合う可愛らしい感じになりますよ」