イケメン伯爵の契約結婚事情

ここはドルテア国。
いくつもの貴族が自治領を持ち、勢力を保ちながら国の均衡を図っている。
王家は中央領を管理し、各貴族領の名産品や作物は、交易を通して中央に集められる。


石炭を多く埋蔵する雄大な領地を持つベルンシュタイン伯爵家は、ドルテア国の中でも有数の名家だ。


後継者は長男であるギュンター=ベルンシュタイン。
見目麗しい容姿に加え、頭脳明晰の将来有望な若者を世の人が放っておくはずもなく、ひっきりなしに届けられる縁談の話に辟易していたようだが、昨年、南のベレ家の令嬢を迎え、落ち着いたところだ。

伯爵にはもう一人子供がいる。ギュンターの妹に当たるエミーリア嬢だ。
花の盛りの十七歳。美しき深窓の令嬢として名高く、とっくに良い縁談話がきて嫁いでいてもいい頃だった。

しかし、彼女の嫁ぎ先はまだ決まっていない。

その理由として有力な噂がふたつある。

本人が内気すぎて結婚に消極的であること、父親であるベルンシュタイン伯爵が娘を溺愛するあまり手放したがらないということ。


しかしそれは、あくまで噂だ。

エミーリアが男を見れば失神するほどウブな女性であるということも、女性の美徳とされる裁縫が素晴らしい腕前であることも、全ては世の男が作り出した幻想に過ぎない。
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