イケメン伯爵の契約結婚事情
エミーリアはトマスを自室に呼びつけ、尊大に言う。
「ムートを連れていきたいの。でも、普段は乗ってはダメと言われたわ。だとすれば、ムートにストレスがたまらないように時折乗ってくれる人が必要なの。私と一緒に来てくれる? トマス」
「……お嬢様は私が断るなどとは思っていないでしょう?」
恭しく頭を下げながらも、誇らしい笑みを見せてトマスは応える。
「もちろんよ。身の回りの世話のためにメラニーも連れていくわ。きっと彼女も心細いだろうから、話し相手にもなってあげてほしいの」
「もちろんです」
こちらも本当の理由だろうとトマスは理解する。
エミーリアを大切に思うのは単に主人だからなわけではない。侍女や従者である自分をちゃんと人間として大切にする気持ちがエミーリアにはある。だからこそ、こちらも命を懸けてでも守ろうと思うのだ。
「……フリード様が何をお考えか分かりませんが、困ったらいつでも言ってください。私の主人はお嬢様だけです」
「ありがとう。トマス」
幼馴染の従者の言葉に不安を払しょくされ、エミーリアもほっと息をなで下ろした。