イケメン伯爵の契約結婚事情


そして、輿入れの日。

エミーリアは清楚な白のドレスに身を包み、侍女のメラニーとともに馬車に乗せられた。
前を行くのは馬に乗った伯爵とお付きの従者たち。
後ろをついてくるのは栗毛の愛馬・ムートに乗ったトマスとその他の衛兵たちだ。


引き渡しは、領土境にある唯一の平原。
クレムラート家ゆかりの神官の立会いのもと、簡易的な婚姻の儀式が行われる。

馬車から降りたエミーリアが見たのは、山で会った時よりも貴族然としたフリードだった。
洗練された身のこなしは、父と見比べても遜色なく、なるほどこれならば領主と言われても納得がいく。


「エミーリア嬢、お会いしたかった」


整った顔に柔らかな笑みを乗せ、フリードはエミーリアの手を取り手の甲に口づけする。

その態度の嘘臭さに寒気がしつつ、エミーリアも今は内気な令嬢を演じるしかない。
恥ずかし気にうつむき、言葉少なに彼の言うことに頷いた。

伯爵は、そんな娘の姿を寂しさ半分誇らしさ半分で見つめている。


 一連の儀式が終わると、フリードは伯爵の元に向かい大きく頭を下げた。


「大切なご令嬢を、預けてくださりありがとうございます」


そして、エミーリアの方にそっと視線を向ける。
予想外の甘いまなざしに、嘘だと分かっていてもエミーリアの胸はときめいた。

そのやり取りに、伯爵は満足げに頷く。
< 21 / 175 >

この作品をシェア

pagetop