イケメン伯爵の契約結婚事情
「いやいや。深窓とは名ばかりで世間知らずな娘だ。どうか大きな心で受け入れてやってほしい。娘もこんなにも君のことを想っているようだし」
「そんな。こちらこそ後妻という立場でお嬢さんを頂くなどという図々しいお願いを聞き入れていただき、感謝しております」
「何を言う。私こそ、君のような将来有望な男の元に大切な娘をやれて、本当にありがたいと思っているとも!」
父親の熱のこもった言葉を聞いていると、罪悪感が募ってくる。
エミーリアは、フリードの服をついと引っ張った。
「あの……のんびりお話ししていては日が暮れてしまいますわ」
「はは。我が娘は早く君の元に行きたいようだ」
冷やかしに入った伯爵を、エミーリアは軽くにらみつける。フリードは頬を緩め、彼女の腰に手を添えた。
「そうだな。では行くとしよう。お義父上、落ち着いたらぜひ我が領地にお越しください」
「おお、楽しみにしているぞ」
「ではお父様、ごきげんよう」
そこで再び馬車に乗り込もうとしたエミーリアの手を、フリードが掴んだ。
「輿に乗っていたのでは景色もよく見えないだろう。怖くなければこちらへ。あなたを歓迎する領民の姿が見えるぞ」
フリードは以前にも乗っていた大きな黒馬に乗り、彼女を引き上げた。