イケメン伯爵の契約結婚事情
自分の馬よりも高い位置に、見える範囲は一気に広くなり、爽快な気分になる。
他の衛兵の手前、一旦は怖がるそぶりを見せたものの、馬が走り出せば黙ってなどいられなかった。
「すごいわ。遠くまで見える。気持ちいい」
「我が領土一番の名馬だ。落ちないようしっかり捕まって、怖ければ言ってくれ」
「怖いわけないわ」
そしてフリードは、馬の足を緩め、しんがりをついてくるトマスの方を仰いだ。
「やっぱり来たんだな」
トマスは複雑な表情で、頭を下げる。
「エミーリア様の馬のお世話をさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」
「わかった。よろしく頼む」
今度はフリード側の従者に付き添われる形で、エミーリアたちは屋敷へと向かった。
平原から山の際に向かって、耕地が広がっている。
鉱山が主であるベルンシュタイン領との違いに、エミーリアはいちいち歓声を上げる。
「ねぇ。すごく綺麗、あれは?」
「あれは麦だ。ここいらの主食だな。ベルンシュタイン領でも作っているだろう」
ベルンシュタイン領は、北西に鉱山をかかえ、南東に平原がある。屋敷はどちらかと言えば山際にあり、エミーリアが出たことがある場所はすべて山側だった。
「でも私、畑そのものを見たことはなかったのよ」
「ここいらは麦が多いが、西側に向かえば野菜を作っているところも多い。あと生産で多いのは花だな。中央領でも我が領土の花は質がいいと評判になっている」
「へぇ」
屋敷の庭園に咲き乱れる花は見てて綺麗だと思うが、花が産業の一部になるなんて、エミーリアは想像もしていなかった。