イケメン伯爵の契約結婚事情
「初めまして。アルベルト=クレムラートです。フリードの父の弟になります。別に屋敷は持っていますが、執務の都合上私もここに住んでおりますので、どうぞ今後ともよろしく」
微笑んでいたアルベルトの、冷えた瞳に身震いがする。
目を合わせているのに、ちゃんと捕らえていない。興味がないと明言している瞳。
初めての種類の視線に、エミーリアは思わず顔を伏せた。
「……噂に違わず内気な方だ。私の意見を差し置いても選んだのも頷けるくらいの愛らしさだな、フリード」
その言葉にフリードを仰ぎ見る。彼は安心させるようにエミーリアの肩を抱くと、儀礼的な笑みを浮かべた。
「ええ、美しい令嬢でしょう。彼女は心も美しいですよ。大切にしたいと思っています」
アルベルトは不快そうに眼を伏せ、ため息交じりに答えた。
「……結構。しばらく執務は私に任せると良い。新婚夫婦には時間が必要だろう?」
「あいにくですが、手紙で今までやり取りをしておりましてね。彼女とは心が通じ合っているんです。仕事に支障はきたしませんよ。叔父上こそ、たまにはご自分の屋敷に戻って、叔母上を安心させてあげてはいかがですか?」
ふたりとも笑顔を浮かべているのに、間に漂う空気じゃピリピリしている。
居心地の悪さにうつむいたままのエミーリアを、心配そうにメラニーが見た。
「……それこそ余計なお世話だよ、フリード」
満面の笑みなのに冷徹な空気を纏ったまま答えるアルベルト。対して、フリードも同じ笑顔を見せた。