イケメン伯爵の契約結婚事情

「でしょうね。さて、新妻に屋敷内を見せてやりたいので、申し訳ありませんが失礼しますよ」


そう言って、フリードは目線でアルベルトを捕らえた。アルベルトの方も目を合わせたまま身じろぎもしない。

通常、この場合立場の弱い方が道を開ける。
領主はフリード、しかし現在のところ実権を握っているのはアルベルトだ。
どちらの立場が上なのかと言えば微妙なところだろう。


「失礼? 叔父上、通していただけますか?」

「ふん」


アルベルトは鼻で笑うと道を開けた。


「せいぜい奥方と仲良くするといい」


微妙な力関係が垣間見れたようで、エミーリアはずっと息を飲みっぱなしだった。

フリードの執務室、寝室、そしてエミーリアに与えられるという個室に入ったところで、ようやく息を吐き出せた。


「……なんなの」

「ごくろうさん。上出来だったよ、エミーリア」

「あれが本当に叔父様? あなたの身内なの?」

「そう。叔父上は俺より十一歳上で、補佐役という立場だが、全体を掌握しているのは叔父上の方だ。父は知っての通り亡くなっているし、母はずいぶん前に父とは離縁している。父方の祖母は生きているが、領地の北の方で静養しているから、俺ももうずいぶん会っていない。ここで身内と言えるのは叔父だけだ。……と言っても見てわかる通り友好的な関係ではない。だから別に君も仲良くする必要などないんだ」

「なにそれ」


ではフリードには、心を許せる家族はいないということだ。
つい三ヶ月前に亡くしたという前妻が、彼の癒しだったのかという考えが頭をよぎった。
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