イケメン伯爵の契約結婚事情
普段は履かない高いヒールの靴、足元すれすれの丈の豪奢なドレス。
それはエミーリアの美しさを際立たせ、来客者は皆、彼女に魅入られ、とりわけ男たちは彼女を囲むように集まった。
人の多さに辟易したエミーリアが移動しようとした時だ。
ドレスを捌ききれず転んだ拍子に、手近のテーブルクロスを引っ張り、騒音と共に崩れ落ちた。
辺りは騒然とし、伯爵夫人は顔を引きつらせて固まった。
咄嗟に彼女が慣れぬ男性との会話で気を失ったということにし、早々に部屋に戻した伯爵の判断はその場を収めるには正しかったのだろう。
しかし、そこからエミーリア嬢は内気であるという噂がたち、人を通すごとにどんどん尾ひれが付いてしまった。
とどまるところを知らない噂が作り出した人物像は、今となっては本人とは似ても似つかない。
その後、伯爵はエミーリアを外交の場には出さず、ひたすら噂通りの淑女になるための教育を施した。
しかし、付け焼刃の教育が身になるわけもなく、この国で婚姻時に娘が持参することがしきたりとなっている手刺繍のベッドカバーは、二年経っても完成していない。
このままでは嫁にも出せない。
縁談はたくさん舞い込んできたが、今の状態のエミーリアを嫁に出すことは詐欺に近いからだ。
十五歳当初はたくさん来ていた縁談の話も、そんな事情で断り続けているうちに、徐々に少なくなってきていた。
伯爵夫妻は毎日ため息をつきながら、せめて婚姻用のベッドカバーを完成させなさいとエミーリアを屋敷にカンヅメにしていた。