イケメン伯爵の契約結婚事情



 花の匂いと差し込む日光で目覚めたとき、そこにフリードはいなかった。エミーリアは身も心もきれいなまま、昨日と変わらない朝を迎える。


「あの、おはよう、ございます」


か細い声を上げるのはメラニーだ。


「おはよう、メラニー……」


起き上がろうとするエミーリアを、メラニーは咄嗟に押さえつける。


「いえ、今日はここで朝食をとらせるようにとフリード様に言いつかっております。体がきついはずだからって言われて」


言いながら、真っ赤になっていくメラニー。


「メラニー、あのね?」

「すごい痛いって言いますものね。あっ、すみません。私ったら。とにかく! 今日は体に優しいものをと、カール様が作ってくださいました」

「……ありがとう」


勘違いされているのは恥ずかしいが、きっとこのままの方がいいのだろう。

メラニーは侍女なだけに、もともと屋敷にいるものとの交流も今後増えていく。
余計な秘密を教えれば、むしろ危険にさらしてしまうかもしれないし、純朴な彼女がぼろを出さないとも限らない。

昨晩フリードが座っていた椅子に腰かけ、テーブルに乗せられた消化のよさそうな食事に対面する。


「頂きます」


とても美味しい。しかし、一人ポツンと食べる食事は、これはこれで味気ない。
本当の新婚夫婦なら、こんな時、恥じらいながらもふたりで食事をするのだろうに。


「なんか……寂しいわね」

「どうかなさいました? エミーリア様」

「いいえ」


意地悪な顔でもいいから、向かいに座ってほしい。
そう言ったら、彼は一緒に過ごしてくれるだろうか。

エミーリアは唇をかみしめる。

胸が落ち着かないのは、きっと昨日の花の香りがまだ辺りに残っているからだ。


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