イケメン伯爵の契約結婚事情
4.良くない噂
 最初の一週間は慣れない生活にあっけにとられていただけだが、慣れるや否や今度は退屈がエミーリアを襲った。
なにしろ、屋敷内でまで大人しくしていろと言われるのだ。これでは実家にいたときの方がまだ自由でいられたというものだ。


「大人しくしているのは飽き飽きです」

「そうはいってもな。屋敷の中では叔父上の目があるからな」


本気の直談判もフリードにあっさりと流されていく。
彼は彼で、いつも仕事が忙しく、エミーリアとは朝と晩しか顔を合わせない。


「君には室内でできる趣味はないのか」

「無いわね。裁縫も嫌いだし」

「読書はどうだ。本ならたくさんあるぞ?」

「……本?」

「興味はありそうだな。ついてこい」


にやりと笑うフリードの後について部屋を出る。

屋敷の中も使用人でいっぱいだ。エミーリアをみると、みんな笑顔を向け頭を下げていく。フリードは見せつけるように肩を抱きながら、一階の書庫にエミーリアを連れてきた。

入ってすぐ、ひんやりした空気がふたりを包んだ。
日焼けを防ぐためかカーテンがかけられている書庫は全体的に無機質な印象だ。


「すごいわね。こんなにたくさん」

「父は、政治的な才能はなかったが本を読むのが好きでな。色々な本を中央領から集めていたんだ。こちらが神話や小説。こっちは政治関連の本。で、この棚が農業関連の本だな」

「へぇ」


エミーリアは背表紙を一冊一冊指でなぞりながら書架を歩いた。
ベルンシュタイン家の屋敷は山際にあったため、あまり日当たりがよくなかった。この書庫は空気がどこか実家に似ている。
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