イケメン伯爵の契約結婚事情

 
 フリードが執務室に戻ると、アルベルトが棚の書類をいじっていた。アルベルトは別に執務室を持っており、普段はここに出入りすることはない。フリードに気づくと、パッと棚から離れた。


「叔父上、どうされました」

「いや? 私の管轄地の帳簿がここに紛れていないかと思ってな」

「ああ、すみません。俺がお借りしていました。ここにありますよ。……ちょうどいい、聞きたいことがあったんです。これより詳しく明細が書かれたものはありませんか?」

「何か気にかかることでも?」

「農作物の販売に関する単価が高過ぎはしないかと。ここの花類と書かれたもの、西の平原での売価とあまりに違いがあります」

「質の良さで値を上げてくれているんだ」

「では一度視察させてはいただけませんか。どの品質まで持っていけばここまで価格が上がるのか確かめたいのですが」


アルベルトは大きなため息をつき、諭すように言う。


「フリード。前にも言ったが、お前はもう少し周りを信用すべきだ。私が管理しているんだら間違いがあるはずがないだろう」

「しかし、もうじきすべての領地が俺の管轄下になります。そのときに何も知らないでは話にならない」

「そもそもそれが間違いだと言っているんだ。この広い領地をお前ひとりで管理することなど無理だよ。今まで通り私に任せてもらえればいい。悪いようにはせんよ。私が実権を握っていた間、この領土の経営が危ぶまれたことがあったか?」


緩やかな微笑みからは自信があふれている。
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