イケメン伯爵の契約結婚事情
「奥様はお気の毒でした。でも、あの時僕はまだ下働きしかしていませんでしたが、毒物の気配など少しもありませんでした。料理長は責任を感じて辞められてしまいましたが、僕は料理人が毒を混入させたわけではないと思っています」
「そうよね」
全員が全員善人だとは思わないが、料理人には料理人のプライドがあるように思えた。
いくら金を積まれたとしても、死に至る料理を作っては二度と料理人には戻れないだろう。
「それにしても重そうね。手伝いましょうか」
「いえいえ、滅相もない」
「私じゃないわ。手伝うのはトマスよ」
「しかし私はお嬢様の護衛が」
「私も一緒に行くから問題ないでしょ」
エミーリアの瞳にいたずらな色がのる。
トマスはやられたなと心の中で思った。退屈していると常々言っていたのだ。屋敷内をめぐるチャンスを、この人が逃すはずはない。
「……カールどの、お手伝いします。エミーリア様はその方がお喜びになるようだ」
「でも。僕がフリード様に叱られます」
「大丈夫よ。お部屋と書庫の行き来にも少し飽き飽きしていたの。フリードにはカールは私に屋敷を案内してくれたって言うわ」
「はあ」
困り顔のカールをなだめつつ、一行は調理場に向かった。