イケメン伯爵の契約結婚事情
「ねぇ、トマス」
「だめですよ」
「まだ何も言っていないわ。ここ、地下室につながっているのかしら」
「これ以上の探検はフリード様に怒られますよ」
「ちょっと見るだけよ」
薄暗い階段をエミーリアは壁づたいに降りていく。地下は石組みがあらわになっていて、冷たい印象がある。降りたところには扉があり、開けてみると小さな部屋になっていた。
床には籠に入れられた根菜類。棚には、ピクルスや、トマトソース、ジャム、ハチミツなどの瓶詰の保存食が並べられている。壁の端から端へと渡されたロープにはハーブが干され、全体的にこもったような匂いがする。
「なんだ、食糧庫ね」
「調理場にも近いですしね。ここは保存食の類かな。ビンがずいぶんいっぱいありますね」
「そうね。たくさん食べ物が取れるんでしょうし、でも鮮度がいいのは数日だけ。保存食を作れれば、もっと経済効果があるかもしれないわね」
エミーリアは思い立ったように階段を上り始める。
「保存食の歴史が書いてある本が読みたいわ」
「は?」
「もう一度書庫に行きましょ?」
知識欲に目覚めたエミーリアに振り回される格好になったトマスは、大きくため息をついた。