イケメン伯爵の契約結婚事情
5.契約の口づけ
「……俺は、行き過ぎた行動を控えさせる意味でもお前をつけているんだが? トマス」
トマスに本をどっさり抱えさせてエミーリアが自室に戻ると、そこにはフリードがいた。
「あら、フリード」
「ご機嫌よさそうだな、奥さん。さっき叔父上が来たよ。君と話をしたというじゃないか」
「だって、書庫でお会いしたんだもの。普通に話したわよ、大丈夫」
「叔父上とふたりきりになるなと言っているだろう」
「ふたりきりじゃないわ。トマスもいた。お茶に誘われたから、それより夕食を一緒にいかがですかって言っておいたわ」
平然と言ってのけるエミーリアに、フリードは大きなため息をつく。
「度胸があり過ぎだ」
「そこを買ってくれたのではなかったの。それより教えて、フリード。私がアルベルト様に漏らしてはいけないことはなに?」
フリードはエミーリアを見つめたまま固まっている。
自分で抱えていた本を机の上に置き、エミーリアは胸をどんと叩く。
「あの人、隙がないわ。どれだけ逃げようとしたって、私とふたりきりで話す機会もきっと確保すると思う。だったら逆手に取ったほうがいいでしょう? あなたはアルベルト様をどうしたいの? 毒殺の証拠を探り出したい? 教えてくれたら力になる」
しばしの睨みあいの後、折れたのはフリードの方だった。